6月12日、令和7年狛江市議会第2定例会が終わりました。本会議最終日、狛江市議会議長より「小木哲朗議員から発言削除の申し出があったため、削除を行う」との報告がありました。小木議員は3月まで生活者ネットワーク狛江の議員でしたが、現在は自民党明政クラブ会派の所属議員です。
前日に開かれた議会運営委員会での議長の説明は「小木議員の差別発言に関して共産党狛江市議団、立憲民主狛江、ひらい里美議員から提出された抗議文書について、正副議長、幹事長、小木議員本人と話し合った結果、小木議員から削除の申し出があった」というものでした。しかし、小木議員からは削除理由も謝罪の言葉もありませんでした。
小木議員が議会で長時間にわたって行った発言は、全く根拠のない憶測と偏見によるものであり、人権を無視した発言でした。議会という公の場において、こうした差別や偏見をあおる情報が発信され、広がること。ホームレス状態の人への差別を扇動することについて市議会として看過することはできません。私は、小木議員が自らの発言を削除することで無かったことにするのではなく、議会として検証を行い、小木議員本人及び、議会全体としても人権教育・研修の機会を設け、再発防止に努めることを、議長に対して文書で求めました。
1. 小木議員の発言内容
【小木委員の一般質問通告】
⚫︎多摩川の魅力をさらに高めるために
・求められるホームレス対策
「ホームレス支援」ではなく「ホームレス対策」という表現を用いるのは、困窮者を多摩川の魅力をさらに高めるための景観問題として扱い、排除の対象とみなす認識に基づくものです。「対策」という言葉には、通常「問題・脅威への対応」の意味が含まれます。「支援を必要とする人々」に向けて使うことは、差別的な発想であり、市民の生命・安全を守るべき地方議会の責任を損なうものだと考えます。
【小木議員の発言】
小木議員は「多摩川の魅力を高める」という名目で、以下のような発言を行いました。
・ホームレスが河原で煮炊きして火災を起こす可能性がある
・川の増水で荷物が流されれば下流住民に危険が及ぶ
・空き家に住み着く可能性がある
・ホームレスの存在が住民福祉を脅かす
・そのための「ホームレス対策」が必要である
これらの発言は、困窮状態にある人々を犯罪を起こしかねない存在として危険視するものであり、排除の対象とみなすものです。
2. 小木議員の発言の問題点
【条例との矛盾について】
狛江市には、2021年に制定された「人権を尊重しみんなが生きやすい狛江を作る基本条例」があります。この条例の目的は、市民の多様性と人権を尊重し、差別や排除のない地域社会を実現することです。小木議員の発言は、この基本条例の理念と明確に矛盾・抵触しています。
① 「ホームレス対策」という表現
支援すべき対象である困窮者を問題や脅威として扱っている。尊厳を無視し支援ではなく管理・排除を前提とする視点。条例が求める「市民一人ひとりの尊重」に逆行するもの
② 「火災を起こすかもしれない」という表現
生活困窮者を危険視・加害者予備軍とする偏見的発言。根拠なく個人の属性に危険性を結びつけることは、明白な差別的言動にあたる。生活状況による排除、偏見を助長し、住民不安を煽るもの
③ 「荷物が下流住民に危険を及ぼす」という表現
生活困窮者を「公共の脅威」として位置付け、共生ではなく排除を促す視点。自然災害時の被害を困窮者のせいにする責任転嫁。住民同士の分断を生む発言で、共生の理念に反する
④ 「存在が福祉を脅かす」との表現
「存在自体が問題」とする発言は、人間の尊厳の否定。「誰もが生きやすいまち」を真っ向から否定するもの。困窮状態にある人を「景観」や地域安全の「障害」として扱う差別的発言。
【地方自治法との矛盾について】
地方自治法の目的は、全ての住民の福祉の増進にあります。困窮者や野宿生活者もまた、狛江市で共に生きる「住民」です。地方議員としての責務は、ホームレス状態にある人々の生存権、居住権、保険及び医療を受ける権利、差別のない生活を送る権利等が侵害されることのないよう、努めることではないでしょうか。
小木議員は「多摩川の魅力向上」を目的としながら、ホームレスの存在を「火災の危険」「景観の問題」「住民福祉を脅かす存在」などと断じ、困窮状態にある人々を犯罪を起こしかねない存在として危険視しています。近隣の住民福祉を脅かすホームレスの存在を排除するという発言は、ホームレスの人々の人権と住民福祉を蔑ろにする差別的言動です。
小木議員が行ったホームレスの状態にある人々を対象とした差別的な発言や、社会からの排除を煽るような言動は、ヘイトスピーチに該当し、偏見や差別を助長し、場合によってはホームレスの人々に対する攻撃的な行動につながりかねません。このような言動が議場で公然と発せられること自体、地方自治法に反するものであり、狛江市の人権政策の信頼性を損なう重大事態です。議会として看過することは市の条例理念に反すると考えます。
3.要望
① 小木議員による発言の内容および市民に与えた影響について、議会として公式な検証と見解を公表すること。
② 小木議員に対し、これらの差別発言について深く反省し、速やかに謝罪の意を表明すると共に、人権尊重と福祉の基本理念に基づいた再発防止のための取り組みに真摯に務めることを強く求める。
③ 「ホームレス対策」という表現に対する問題意識を明確にし、市議会全体での再発防止策と人権教育・研修の機会を設けること。あらゆる立場の市民が尊重され、安心して暮らせる共生の地域社会を目指すための議論を、議会全体として進める。
本会議前日の議会運営会において提出された小木議員の発言記録、及び、本会議を経てアンダーライン部分を削除した記録を確認の上、ぜひ市民の皆様にも共に考えていただきたいと思います。
コロナ禍において、住まいを失った方々が若者たちに暴力を受け、命を失うことになってしまった大変痛ましい事件が続きました。生活者ネットの松崎よしこ前議員とは、住まいを失った方々の相談支援や勉強会を共に続けて来ましたので、生活者ネット後任の小木議員が自民党会派に移籍した途端、住まいを失った方々を排除の対象とする発言を繰り返されたことに、とても驚き、悲しく思います。
松崎前議員と私が共に活動している複数の支援団体がかつて共同で、インフルエンサーのDaiGo氏の差別発言に対し、声明文を出しましたが、つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛さんはこう言っています。
「インフルエンサーの芸能人だけでなく、国会議員や大学教員など、社会に大きな影響力を持つ人が人の命の価値を否定するような発言をした場合は『一発アウト』、その職を続けるべきではないと私は考えています。厳しすぎるという意見もあると思います。しかし、そういう対応を社会が積み重ねていかない限り、また同じような差別や扇動が繰り返され、いつか暴力が誘発され、社会が壊される事態になってしまうと懸念しています。ただ、本当に重要なのは、DaiGo氏が今後どうするかということよりも、こうした問題に社会がどう向き合うか、だと思います。」
「今回はホームレスの人や生活保護利用者がターゲットになりましたが、障害のある人や外国人がターゲットになることもある。今回の問題を、こうした自分たちのなかにある差別意識を克服し、人権意識を更新するきっかけにできればと思います。」